遺言にはどんな種類がある? 5種類の特徴と選び方を解説

  • 遺産相続
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
遺言にはどんな種類がある? 5種類の特徴と選び方を解説

一般的に利用される遺言書には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。また、これ以外にも特別な方式の遺言として「危急時遺言」、「隔絶地遺言」の2種類があります。それぞれ異なった特徴のある遺言ですので、メリット・デメリットを踏まえて、適切な遺言を選択することが大切です。


本コラムでは、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、危急時遺言、隔絶地遺言の5種類の特徴と選び方についてわかりやすく解説します。

1. 遺言の種類

遺言にはどのような種類があるのでしょうか。以下では、遺言の種類と各遺言の特徴について説明します。

(1)そもそも「遺言」とは

遺言とは、主に自分が亡くなった後の財産の承継について最終意思を示したものになります。

遺言がなければ相続人による遺産分割協議が必要になりますが、遺産分割協議の成立には、相続人全員の合意が必要になりますので、ひとりでも納得しない人がいる場合は、遺産分割協議を成立させることができません。

しかし、遺言を作成しておくことで、遺産分割協議が不要となりますので、相続争いを防ぐことが可能です。

遺言とは|必要なケースや無効にならい書き方

(2)遺言の2つの形式|普通方式遺言と特別方式遺言

遺言には、普通方式遺言特別方式遺言の2つの形式があります。

特別方式遺言とは、普通方式遺言を作成することができないような特殊な状況下にあるときに利用できる形式の遺言で、「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2種類があります。

普通方式遺言とは、通常の日常生活の中で作成される遺言で、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。

(3)3種類の普通方式遺言

普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの種類があります。以下では、それぞれの遺言の特徴とメリット・デメリットについて説明します。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 自分で遺言の全文、日付、氏名を自書・押印をする 本人が遺言内容を口述し、それに基づき公証人が作成する 本人が作成した遺言を公証役場に提出して完成させる
証人の要否 不要 必要 必要
保管方法 遺言者が保管 公証役場で保管 遺言者が保管
検認の要否 必要 不要 必要
メリット ・費用がかからない
・手軽に作成できる
・無効になりにくい
・遺言書の発見が容易
・遺言内容を秘密にできる
デメリット ・無効になるリスクがある
・偽造、隠匿、紛失のリスクがある
・費用がかかる ・証人を2人手配する負担がある ・無効になるリスクがある
・費用がかかる
・証人を2人手配する負担がある

①自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言です。遺言の全文を自書する必要がありますが、財産目録についてはパソコンなどで作成することが認められています。

【メリット】

自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば作成できるので、いつでも・どこでも手軽に作成できるというのが最大のメリットです。

他の方式の遺言のように特別な手続きは必要ないため、思い立ったらすぐに作成することが可能です。

【デメリット】

遺言は、法律上の要件を満たさなければ無効になってしまいます。自筆証書遺言は、誰かに形式や内容をチェックしてもらえるわけではないので、正確な知識がない方が作成すると、遺言が無効になってしまうリスクがあります。

また、自筆証書遺言は、原則として遺言者本人が保管することになるので、保管方法によっては、第三者に偽造・隠匿される、遺言者の死亡時に遺言を見つけてもらえないといったリスクがあります。

自筆証書遺言の書き方|作成の注意点【ひな形ダウンロード可】

②公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証役場の公証人が関与して作成する方式の遺言です。遺言者は、2人以上の証人立ち会いのもと公証人に遺言内容を口述し、公証人がそれに基づいて遺言書を作成します。

【メリット】

公正証書遺言は、専門家である公証人が作成する遺言なので、形式面の不備により遺言が無効になるリスクはほとんどありません。また、内容についても公証人がチェックすることになり、遺言内容が曖昧でトラブルになる心配もありません。

作成後の遺言は公証役場で保管されるため、偽造・隠匿・紛失のリスクもなく、もっとも安全な方式の遺言といえるでしょう。

【デメリット】

公正証書遺言の作成にあたっては、公証人に手数料を支払わなければなりません。手数料の金額は、遺産の額によって左右されますが、おおむね数万円から十数万円程度になることが多いでしょう。

また、公正証書遺言を作成するには、2人以上の証人を手配しなければなりません。推定相続人やその配偶者などは証人になることができないので、適任者が見つからないというケースもあるでしょう。

公正証書遺言とは|必要書類や作成の流れを解説

③秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者が作成した遺言を公証役場に持ち込み、公証人と2人以上の証人に遺言書の存在を証明してもらう方式の遺言です。自筆証書遺言とは異なり、全文の自書が要件とはされていないので、署名と押印を除けばパソコンを利用して作成することもできます。

【メリット】

秘密証書遺言は、その名のとおり遺言の内容を秘密にできるというメリットがあります。公証人や証人が証明するのは、封印された状態の遺言なので、その内容が第三者に知られる心配はありません。

【デメリット】

秘密証書遺言は、公正証書遺言のように費用と証人を手配する負担が生じる点がデメリットといえます。

また、公証人が関与するのは、あくまでも遺言の存在についての証明だけです。遺言の内容や形式をチェックしてくれるわけではないので、自筆証書遺言と同様に遺言が無効になるリスクがあります。

(4)2種類の特別方式遺言

特別方式遺言には、危急時遺言と隔絶地遺言の2つの種類があります。以下では、それぞれの遺言の特徴について説明します。

①危急時遺言

危急時遺言とは、遺言者に生命の危機が迫っており、すぐに遺言書を作成しなければならない状態で作成される方式の遺言です。遺言者は、口頭で遺言を残し、証人が代わりに書面化する方法で遺言を残すことができます。

危急時遺言には、以下の2種類の遺言があります。

【一般臨終遺言】

一般臨終遺言とは、疾病その他の理由で死亡の危急が迫っている場合に利用できる方式の遺言です。一般臨終遺言の要件は、以下のようになっています。

  • 証人3人以上が立ち会い、遺言者がそのうちの1人に遺言の趣旨を口授する
  • 口授を受けた証人がその内容を筆記する
  • 証人が筆記した内容を遺言者および他の証人に読み聞かせまたは閲覧をする
  • 各証人が、筆記が正確なことを確認後、遺言書に署名と押印をする

なお、遺言者が普通方式により遺言できるようになったときから6か月間生存すると、一般臨終遺言は無効になります。

【難船臨終遺言】

難船臨終遺言とは、船舶や飛行機の遭難により死亡の危急が迫っている場合に利用できる方式の遺言です。一般臨終遺言よりも緊急性の高い状況であるため、一般臨終遺言よりも要件が緩和されています。

  • 証人2人以上が立ち会い、遺言者がそのうちの1人に遺言の趣旨を口授する
  • 口授を受けた証人がその内容を筆記する
  • 各証人が、筆記が正確なことを確認後、遺言書に署名と押印をする

証人は、遭難が止んだ後に記憶にしたがって遺言の趣旨を筆記し、署名・押印することも可能です。

なお、遺言者が普通方式により遺言できるようになったときから6か月間生存すると、一般臨終遺言は無効になります。

②隔絶地遺言

隔絶地遺言とは、遺言者が一般社会から隔絶した環境にある場合に認められる方式の遺言です。隔絶地遺言には、以下の2種類があります。

【一般隔絶地遺言】

一般隔絶地遺言とは、伝染病による隔離や刑務所に服役中など普通方式による遺言が困難な場合に利用できる方式の遺言です。

遺言者は、警察官1人と証人1人の立ち会いのもと、遺言者自身で遺言書を作成し、警察官と証人の署名・押印により完成させます。

【船舶隔絶地遺言】

船舶隔絶地遺言とは、船舶に乗船中の人が作成できる方式の遺言です。

遺言者は、船長もしくは事務員1人と証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者自身で遺言書を作成し、遺言者と立会人全員の署名・押印により作成します。

2. 遺言の種類の選び方

遺言書には、上記のようにさまざまな種類がありますが、日常生活において作成するのであれば、普通方式の3種類の遺言のなかから適切な種類を選択する必要があります。以下では、遺言の種類の選び方について説明します。

(1)有効な遺言を確実に作成したい|公正証書遺言

遺言には法律上厳格な要件が定められているので、十分な知識のない方では、必要な要件を欠き、遺言が無効になってしまうリスクがあります。

そのようなリスクを回避したいなら、公証人が作成に関与する公正証書遺言がおすすめです。

(2)争いのリスクを低くしたい|公正証書遺言

自筆証書遺言の場合、偽造や変造のリスクがあるため、遺言書が発見されたとしても相続人から遺言が無効である旨の主張が出されるなどの相続争いが生じるリスクがあります。

このようなリスクを軽減したいなら、公正証書遺言がおすすめです。公正証書遺言は、公証役場で遺言書が保管されるので、自筆証書遺言のような偽造や変造による相続争いが生じるリスクはありません。

(3)相続人の手間を軽減したい|公正証書遺言

自筆証書遺言の場合、遺言にしたがって相続手続きを進めるためには、裁判所の検認手続きが必要になります。しかし、公正証書遺言であれば、検認手続きは不要なので、すぐに不動産の名義変更や預貯金の払い戻し手続きなどを行うことができます。

(4)費用や手間をかけずに作成した|自筆証書遺言

自筆証書遺言であれば、紙とペンと印鑑があれば、いつでも・どこでも作成できます。そのため、遺言書を作成する際の費用や手間をかけたくないという場合は、自筆証書遺言がおすすめです。

ただし、自筆証書遺言は、形式面や内容面の不備により無効になるリスクがあるので、専門家である弁護士に相談しながら作成するとよいでしょう。

弁護士JP編集部
弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

遺産相続に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す