「遺産の使い込み」で揉めている場合にとりうる手段とは

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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
「遺産の使い込み」で揉めている場合にとりうる手段とは

他の相続人が勝手に遺産(相続財産)を使い込んだら、不当利得返還請求などによって解決を図りましょう。また、使い込まれた遺産の額を考慮して、遺産分割の内容を定めることもできます。

このページでは、遺産の使い込みに関するトラブルへの対処法を解説します。

1. 遺産の使い込みに対しては「不当利得返還請求」ができる

他の相続人が勝手に遺産を使い込んだ場合は、「不当利得返還請求」によって遺産を元に戻すように請求できます。

(1)相続発生後・遺産分割前の遺産は、相続人全員の「共有」

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、被相続人名義の遺産は相続人全員の共有となります(民法898条)。

共有である遺産を処分するためには、相続人全員の同意を得なければなりません(民法251条1項)。
また、賃貸借などの管理行為については、共有持分(法定相続分)の過半数を有する者の同意によって行う必要があります(民法252条1項)。
各共有者が単独でできるのは、保存行為などに限られます。

遺産の共有関係が解消されるのは、遺産分割が完了した時です。したがって、遺産分割前の遺産を、個々の相続人が勝手に使い込むことは認められません。

(2)遺産分割前の使い込みに対しては「不当利得返還請求」を

遺産分割前の遺産を勝手に使い込んだ場合、その相続人は法律上の原因なく利益を得る反面、他の相続人に損失を及ぼしています。
この場合、他の相続人は遺産を使い込んだ相続人に対して、不当利得返還請求を行うことができます(民法703条、704条)。

<不当利得返還請求の要件>

  1. 請求を受ける側に利益が生じていること
  2. 請求者に損失が生じていること
  3. 利益と損失の間に因果関係があること
  4. 利益を得ることについて法律上の原因がないこと

不当利得返還請求は、使い込まれた遺産を元に戻すよう請求するものです。また、使い込みは悪意による行為であるため、法定利率による利息も併せて請求可能です。

なお、以下のような支出は不当利得に当たらないため、返還を請求できない点にご注意ください。

<不当利得に当たらないもの>

  • 葬儀代など、相続人全員のために支出したもの
  • 医療費や介護費用など、被相続人の生前に支出したもの

(3)不当利得返還請求を行う際の注意点

使い込まれた遺産について不当利得返還請求を行う際には、裁判所に対して、相手方の財産に関する民事保全(仮差押えまたは仮処分)の申立てを行いましょう。差し押さえるべき財産が流出し、不当利得返還請求が空振りに終わってしまうことを防ぐためです。

また不当利得返還請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法166条第1項)。時効期間が経過する前に、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などによって時効完成を阻止しましょう。

  1. 権利を行使できることを知った時(=使い込みを知った時)から5年
  2. 権利を行使できる時(=使い込みがなされた時)から10年

2. 遺産分割の中で「使い込み」を精算することも可能

使い込まれた遺産については、不当利得返還請求を行う代わりに、遺産分割の中で精算することもできます。

(1)使い込まれた額を考慮して、遺産分割の内容を定めることができる

分割前の遺産が使い込まれた場合は、使い込みをした者以外の相続人全員の同意によって、その遺産が存在するものとみなして遺産分割を行うことができます(民法906条の2 1項、2項)。
具体的には、遺産を使い込んだ相続人がその遺産を相続したことにして、その他の遺産の取り分を減らすことが可能です。

遺産分割協議とは|進め方やうまく進まない場合の対処法を解説

(2)遺産分割協議がまとまらないときは、調停・審判で解決を

遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。遺産分割調停では、中立である調停委員に、遺産分割に関する合意形成をサポートしてもらえます。

遺産分割調停が不成立となった場合は、家庭裁判所が審判によって遺産分割の内容を決定します。審判においては、原則として法定相続分に従った遺産分割が行われます。

遺産分割調停・審判については、以下のページをご参照ください。

遺産分割調停とは|手続きや有利に進めるポイントを解説

3. 遺産の使い込み問題を解決するポイントは「証拠集め」

遺産の使い込みに関するトラブルを適切に解決するためには、使い込みの証拠を確保することが重要になります。

(1)証拠集めが重要である理由

遺産の使い込みが疑われる相続人は、使い込みの事実を否認するかもしれません。

最終的には訴訟などの法的手続きで争うことになりますが、法的手続きにおいて使い込みの事実を認めてもらうためには、客観的な証拠が必要になります。
預貯金の入出金履歴など、不正なお金の流れを立証できる証拠を確保しましょう。

(2)使い込みに関する証拠集めは弁護士に相談を

遺産の使い込みに関する有力な証拠を確保するためには、弁護士のサポートを受けましょう。弁護士に依頼すれば、弁護士会照会などの権限を活用して、使い込みの事実を立証するに足る証拠を確保するために尽力してもらえます。

また、弁護士は証拠集めのほかにも、他の相続人との交渉や法的手続きへの対応を代行します。弁護士が法的な観点から説得的に主張を行うことにより、有利な形で相続を終えられる可能性が高まります。

他の相続人による遺産の使い込みが疑われる場合や、その他の遺産相続トラブルが発生している場合には、お早めに弁護士へご相談ください。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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