失業保険は「会社都合退職」と「自己都合退職」でどう違う?
- 労働問題
1. 会社都合退職と自己都合退職の違い
まずは一般的な用語としての「会社都合退職」と「自己都合退職」の違いを確認しておきましょう。
(1)会社都合退職とは
会社都合退職とは、会社側の都合により、労働者との雇用契約を終了することです。
労働者が自発的に退職したのではなく、会社側から何らかの働きかけを受けて退職した場合には、会社都合退職になり得ます。強制的な解雇に限らず、退職勧奨を経た後の合意退職なども会社都合退職の一種です。
会社都合退職では、自己都合退職よりも退職金の支給が有利になることがあります。
(2)自己都合退職とは
自己都合退職とは、労働者側の都合による退職です。労働者が自発的に退職した場合には、自己都合退職に当たります。
自己都合退職の場合、退職金の支給などに関して、会社都合退職よりも不利に取り扱われることがあります。
(3)会社都合退職か自己都合退職かは誰が決める?
会社都合退職と自己都合退職のどちらであるかは、客観的に決まります。会社がどちらか決めるものではありません。
したがって、会社が自己都合退職であると主張しても、労働者が納得できなければ、会社都合退職であると反論して争うことができます。
(4)会社が会社都合退職を認めたがらない理由
会社都合退職をした労働者の数が増えると、政府が事業者向けに設けている給付金や助成金などを利用できなくなることがあります。
そのため、政府の給付金や助成金を利用している会社や、これから利用することを計画している会社は、できる限り労働者の退職を自己都合退職扱いにしようとするケースが多いです。
2. 失業保険に関する会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職と自己都合退職の違いが顕著に表れる場面のひとつが、失業保険(雇用保険)に関する取り扱いです。
失業給付(=雇用保険の基本手当)の受給に関しては、会社都合退職扱いの方が自己都合退職扱いの場合よりも有利となります。
(1)会社都合退職扱いとなる「特定受給資格者」と「特定理由離職者」
失業給付(=雇用保険の基本手当)の受給の際に会社都合退職扱いとなるのは、「特定受給資格者」と「特定理由離職者」です。
世間的な認識では自己都合退職であっても、退職に関する事情によっては特定受給資格者または特定理由離職者として取り扱われることがあります。
特定受給資格者に当たる者
- 解雇により離職した者
※自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く - 労働契約の締結時に明示された労働条件が、事実と著しく相違したことを理由に離職した者
- 退職手当を除く賃金の3分の1を超える額が連続2か月以上未払いとなり、または離職の直前6か月間において3か月以上未払いとなったことを理由に離職した者
- 賃金が85%未満に低下し、または低下することとなったことを理由に離職した者
※賃金の低下を予測できなかった場合に限る - 離職の直前6か月間において以下のいずれかの時間外労働が認められ、行政機関から危険または健康障害のおそれを指摘されたにもかかわらず、その防止措置が講じられなかったことを理由に離職した者
- 3か月連続で45時間を超える時間外労働
- 1か月で100時間を超える時間外労働
- 2か月~6か月平均で月80時間を超える時間外労働
- 労働者の職種転換等に際して、事業主が職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないことを理由に離職した者
- 3年以上雇用が継続した後、雇い止めを受けて離職した有期雇用労働者
- 有期労働契約の更新が明示されていたにもかかわらず、労働契約が更新されないこととなったために離職した者(7に該当する者を除く)
- 上司や同僚などから、故意に排斥・著しい冷遇・嫌がらせを受けたことを理由に離職した者
- 退職勧奨を受けて離職した者
※恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募した場合を除く - 使用者の責めに帰すべき事由による休業が連続3か月以上となったことを理由に離職した者
- 事業所の業務が法令に違反したことを理由に離職した者
特定理由離職者に当たる者
- 労働契約の更新を希望したにもかかわらず、事業主との合意が成立しなかったために離職した有期雇用労働者
- 自己都合により離職した者のうち、以下のいずれかに該当する離職の正当な理由があるもの
- 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等
- 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法に基づく受給期間延長措置を受けたこと
- 家庭の事情の急変
(例)両親の死亡、疾病、負傷、扶養、親族の看護 - 配偶者または扶養親族との別居生活の継続が困難となったこと
- 通勤が不可能または困難となったこと
- 希望退職者の募集に応じたこと
- 退職勧奨を受けて離職した者
※恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募した場合を除く - 使用者の責めに帰すべき事由による休業が連続3か月以上となったことを理由に離職した者
- 事業所の業務が法令に違反したことを理由に離職した者
(2)失業保険の給付開始時期が異なる
特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合(=会社都合退職)には、雇用保険の基本手当は受給資格の決定日から7日間の経過後に支給が開始されます。
一方、その他の場合(=自己都合退職)には、受給資格の決定日から7日間と2か月が経過しなければ、雇用保険の基本手当を受給できません。
(3)失業保険の給付日数が異なる
雇用保険の基本手当の給付日数も、特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合(=会社都合退職)と、そうでない場合(=自己都合退職)で下表のとおり異なります。
▼特定受給資格者・特定理由離職者
被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
▼上記以外
被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
全年齢 | 90日 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
上表のとおり、会社都合退職の場合の方が自己都合退職に比べ給付日数が多いため、トータルの給付額も会社都合退職の方が多くなります。
3. 自己都合退職扱いに納得できない場合の対処法
雇用保険の基本手当の受給に関しては、申請を受けたハローワークが審査を行って、特定受給資格者または特定理由離職者に当たるか否かを判断します。
会社が自己都合退職を主張している場合には、労働者が会社都合退職を主張したとしても、ハローワークが自己都合退職扱いで受給資格を決定してしまう可能性があります。
自己都合退職扱いに納得できない場合は、雇用保険審査官に対して審査請求を行い、特定受給資格者または特定理由離職者への受給資格の変更を求めましょう。
審査請求の結果にも納得できない場合は、裁判所に抗告訴訟を提起することが考えられます。
これらの不服申し立て手続きを、転職活動などと並行して行うのは非常に大変なので、弁護士へのご相談をおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年04月01日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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