自賠責保険と任意保険の違いは?対象事故と補償内容を解説
- 交通事故
1.自賠責保険と任意保険の違いは?
自賠責保険は、法律により加入が義務づけられている(強制加入の)自動車保険です。交通事故の被害者が死傷した場合は、加害者が加入している自賠責保険によって最低限の補償が行われます。
これに対して、任意保険は法律により加入が強制されていない(任意加入の)自動車保険です。自賠責保険によってはカバーされない損害についても、加害者が任意保険に加入していれば、任意保険から保険金が支払われます。
また、任意保険による補償内容には、被害者に対する損害賠償に加えて、自分や同乗者がけがをした場合の補償、車両が破損した場合の補償なども含めることができます。
さらに、弁護士に依頼する際の弁護士費用をカバーする特約(=弁護士費用特約)を、任意保険に付帯させることもできます。
強制保険である自賠責保険に比べて、任意加入の任意保険は、契約内容によってオーダーメード性が高く、幅広い補償をカバーしているのが特徴的です。
2.自賠責保険とは
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、交通事故の被害者に対して最低限の補償を提供することを目的とした自動車保険です。
自賠責保険への加入は法律上義務付けられており、加入を怠ったまま自動車を運行すると刑事罰の対象となります(自動車損害賠償保障法5条、86条の3-1項1号)。
自賠責保険によって補償されるのは、交通事故による人身損害(傷害・後遺障害・死亡)です。物損(物的損害)は、自賠責保険では補償されません。
具体的には、以下のような損害が自賠責保険によって補償されます。
<傷害による損害> 限度額:120万円
- 治療費
- 看護料
- 諸雑費
- 通院交通費
- 義肢などの費用
- 診断書などの費用
- 文書料
- 休業損害
- 入通院慰謝料
<後遺障害による損害> 限度額:75万円~4000万円(後遺障害等級による)
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
<死亡による損害> 限度額:3000万円
- 葬儀費
- 逸失利益
- 被害者本人の慰謝料
- 遺族の慰謝料
自賠責保険による補償には、傷害・後遺障害・死亡のそれぞれについて上記の限度額が設けられています。
多くの場合、自賠責保険による補償は、損害全額をカバーするのに十分ではありません。特に被害者が死亡した場合や、重篤な後遺障害が残った場合には、自賠責保険の限度額を超える損害が発生するケースが多いです。
<高額の損害賠償が認められた判決例>
- 横浜地裁2011年11月1日判決
→41歳の男性眼科開業医が死亡、認定総損害額5億2853万円 - 札幌地裁2016年3月30日判決
→30歳の男性公務員が後遺障害、認定総損害額4億5381万円 - 横浜地裁2017年7月18日判決
→50歳の男性コンサルタントが後遺障害、認定総損害額4億5375万円 - 札幌地裁2021年8月26日判決
→19歳の男性大学生が後遺障害、認定総損害額4億5063万円 - 鹿児島地裁2016年12月6日判決
→58歳の女性専門学校教諭が後遺障害、認定総損害額4億3961万円
3.任意保険とは
任意保険は、任意加入の自動車保険です。「対人賠償保険」「対物賠償保険」「人身傷害保険・搭乗者傷害保険」「車両保険」などの補償が用意されているほか、「弁護士費用特約」を付帯させることもできます。
(1)対人賠償保険
「対人賠償保険」は、交通事故の相手方の人身損害のうち、自賠責保険ではカバーされない部分の損害賠償責任をカバーする保険です。
自賠責保険とは異なり、対人賠償保険による補償には限度額がないのが通常です。自賠責保険では補償されない損害も、加害者が対人賠償保険に加入していれば幅広く補償されます。
ただし対人賠償保険については、事故当事者間の過失割合が自賠責保険よりも厳密に考慮され、過失相殺が行われます。そのため、被害者に大きな過失が認められる場合は、対人賠償保険による補償も大幅に減額されるので注意が必要です。
(2)対物賠償保険
「対物賠償保険」は、交通事故の相手方の物的損害の損害賠償責任をカバーする保険です。一般的には、対人賠償保険と対物賠償保険にセットで加入します。
物損は自賠責保険による補償の対象外ですが、加害者が対物賠償保険に加入していれば、対物賠償保険によって補償されます。
通常は限度額が無制限である点や、過失相殺が厳密に行われる点は、対人賠償保険と同様です。
(3)人身傷害保険・搭乗者傷害保険
「人身傷害保険」は、契約者(被保険者)自身や同乗者の傷害・後遺障害・死亡による損害を補償する保険です。
交通事故の相手方が加入している自動車保険によって十分な補償が受けられない場合や、早期に保険金を受け取りたい場合などには、人身傷害保険が役立ちます。
人身傷害保険によってカバーされるのは、実際に契約者や同乗者が被った損害額です。ただし、免責限度額が設定されている場合は、その範囲内の損害が補償対象外となります。
人身傷害保険に加入する場合は、「搭乗者傷害保険(搭乗者傷害特約)」を付けられることがあります。
搭乗者傷害保険は、人身傷害保険による補償に上乗せして、保険契約で定められた一定額の補償を提供するものです。人身傷害保険と同様に、契約者自身や同乗者の傷害・後遺障害・死亡による損害が補償の対象となります。
(4)車両保険
「車両保険」は、契約者が運転する車が事故に遭った場合に、修理費や買替費用などを補償する保険です。交通事故の相手方が対物賠償保険に加入していない場合や、早期に物損の補償を受けたい場合などには、車両保険が役立ちます。
車両保険によってカバーされるのは、実際に発生した物損の金額です。ただし、免責限度額が設定されている場合は、その範囲内の損害が補償対象外となります。
(5)弁護士費用特約
「弁護士費用特約」は、交通事故の損害賠償請求などを弁護士に依頼する際に、弁護士費用を補償する保険です。契約者のほか、配偶者や同居の親族も弁護士費用特約を利用できます。
交通事故被害について適正額の損害賠償を受けるためには、弁護士のサポートが必要不可欠です。弁護士費用特約を利用すれば、費用の心配をすることなく弁護士に依頼できます。
4.加害者が任意保険未加入の場合はどうなる?
交通事故の相手方が任意保険に加入していなかった場合は、まず自賠責保険の保険金を請求した上で、不足額は相手方本人に対して損害賠償を請求するのが原則です。ただし、相手方本人に資力がなく、十分な賠償が受けられないケースも少なくありません。
そういう場合に、人身傷害保険・搭乗者傷害保険や車両保険に加入していれば、その保険から補償を受けられる可能性があります。
また、自分が加入している保険に「無保険車傷害特約」が付帯されていれば、実際の損害と相手方から受けた補償の差額に相当する保険金の支払いを受けられることがあります。
相手方から十分な損害賠償を受けられないときは、自分が加入している保険の補償内容をよく確認しましょう。
5.任意保険の請求は弁護士に相談を
交通事故被害者に対して任意保険から支払われる保険金は、保険会社との示談交渉などによって決まります。しかし、保険会社は支払う保険金額を抑えようとして、適正な水準よりも低い金額を提示してくるケースが多いです。
保険会社の提示額に惑わされることなく、適正額の損害賠償を請求するためには、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、被害者の損害を漏れなく集計した上で、過去の裁判例に基づく「弁護士基準(裁判所基準)」により、法的に適正な損害賠償を請求してもらえます。
弁護士へ依頼する際には弁護士費用がかかりますが、任意保険に「弁護士費用特約」を付けていれば、ほとんど費用をかけることなく弁護士に依頼できます。自分の任意保険の保険会社に問い合わせてみましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年10月24日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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