生前贈与とは? 相続税対策におけるメリットと注意点
- 遺産相続
1. 生前贈与とは?相続税対策に役立つ理由
生前贈与をうまく活用すれば、相続税の負担を効果的に軽減できます。
(1)生前贈与とは
「生前贈与」とは、自分が生きている間に財産を贈与することをいいます。
これに対して、自分の死後に家族が遺産を引き継ぐことは「相続」といいます。また、遺言によって財産を譲り渡すことは「遺贈」といい、生前贈与とは異なります。
生前贈与をすると、早い段階から家族などに財産を活用してもらえる点が大きなメリットです。さらに後述する理由により、生前贈与が相続税対策として効果を発揮するケースもあります。
(2)生前贈与の税率|相続税との比較
生前贈与に対しては、原則として贈与税が課されます。
贈与税の税率は、「特例税率」と「一般税率」の2種類です。
贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者が、直系尊属(父母・祖父母など)から受ける贈与については特例税率、その他の贈与については一般税率が適用されます。
<特例税率>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
<一般税率>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
これに対して、相続財産などに対して課される相続税の税率は、以下のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
同程度の金額帯を比較すると、総じて相続税よりも贈与税の方が、税率が高くなっています。
贈与税の税率が高めに設定されているのは、過度な生前贈与によって相続税の負担を軽減する行為を防止するためです。
(3)生前贈与が相続税対策に役立つ理由
贈与税の税率が相続税より高めであるにもかかわらず、生前贈与は相続税対策に役立つことがあります。
その理由は、次の項目以降で解説する生前贈与の優遇措置を活用して、効果的に税負担を軽減できることがあるからです。
2. 生前贈与に対する2つの課税制度と相続税対策時の留意点
生前贈与に対する贈与税の課税方式は、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2通りです。
(1)暦年課税
「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までに受ける贈与の額に応じて、毎年贈与税を課す方式です。
暦年課税では、基礎控除額の年間110万円を超える部分の贈与に対して、特例税率または一般税率による贈与税が課されます(税率は前掲)。
特に、基礎控除額の範囲内で毎年110万円以内の贈与を行う「暦年贈与」が、相続税対策として広く知られています。
ただし、相続開始前7年間に行われた贈与については、相続税が課されます(=生前贈与加算)。その贈与についてすでに贈与税を納めている場合は、納付額が相続税額から控除されます。
暦年課税については、以下のページをご参照ください。
(2)相続時精算課税
「相続時精算課税」とは、一定額に至るまでの贈与について贈与税を課さない一方で、相続発生時にまとめて相続税を課す方式です。
60歳以上の直系尊属(父母や祖父母など)から18歳以上の者が受ける贈与に限り、受贈者の税務署に対する届出によって相続時精算課税制度を選択できます。
相続時精算課税では、対象の贈与者から受ける総額2500万円に達するまでの贈与については、贈与税が課されません(超過部分については一律20%の贈与税が課されます)。
贈与税が課されなかった贈与に対しては、相続発生時に相続税が課されます。
ただし、年間110万円の基礎控除額を超えない贈与については、相続税の課税対象になりません。
相続時精算課税制度については、以下のページをご参照ください。
相続時精算課税制度とは? 法改正でこれから相続税対策の「主流」に
(3)生前贈与による相続税対策では「損益分岐点」の見極めが重要
暦年課税と相続時精算課税のどちらを選択する場合でも、生前贈与が多額になればなるほど、贈与税の負担が相続税よりも重くなる傾向にあります。
効果的に相続税対策を行うためには、贈与税と相続税の「損益分岐点」を見極めることが大切です。税理士などの専門家に相談して、生前贈与の内容やタイミングについてアドバイスを受けましょう。
3. 生前贈与について活用できる一括贈与の特例
生前贈与については、基礎控除とは別に以下の非課税特例の適用を受けられる場合があります。
①住宅取得等資金の贈与の非課税特例
参考:「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」(国税庁)
②教育資金の一括贈与の非課税特例
参考:「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
③結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例
ただし、これらの非課税特例を利用するためには、厳格な要件を満たす必要があります。
また、近時の税制改正により、各非課税特例によって税負担を軽減する効果が限定的になった点に注意が必要です。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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