人身事故の加害者がとるべき対応と法的責任、示談交渉の進め方

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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
人身事故の加害者がとるべき対応と法的責任、示談交渉の進め方

普段から安全運転を心がけていたとしても、ふとした気のゆるみから交通事故の加害者になってしまうことがあります。交通事故の加害者になると、事故直後からさまざまな対応を求められますので、きちんと対応していくかなければなりません。
また、交通事故の加害者には、刑事上の責任、民事上の責任、行政上の責任が生じますので、それぞれの責任の内容をしっかりと理解しておきましょう。

1.人身事故の加害者が事故直後にとるべき対応

人身事故の加害者は、事故直後に以下のような対応が必要になります。

(1)道交法上の義務を尽くす

人身事故の加害者には、道路交通法上、以下のような3つの義務があります。これらの義務違反に対しては、刑罰が適用されますので、しっかりと対応するようにしてください。

①負傷者の救護

交通事故の加害者には、救護義務がありますので、交通事故による負傷者がいる場合は、以下のような措置が求められます。

  • 可能な範囲で応急処置をする
  • 救急車を呼ぶ
  • 近くの病院に運ぶ

このような義務を怠ると、救護義務違反となり、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
また、救護行為を中断して逃走すると、保護責任者遺棄罪・同致死傷罪に問われる可能性もありますので注意が必要です。

②現場の安全確保

交通事故が発生したときは、直ちに車を安全な場所に停止して、人や物に対する被害の状況を確認しなければなりません。
また、その際には、交通事故の続発を防止するために、停止表示器材の設置や発煙筒を利用するなどして接近してくる他の車に事故の存在を知らせなければなりません。
他人にけがをさせた加害者がこれらの義務を怠ると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

③警察への報告

事故が発生した場合、警察への報告義務が課されています。事故の軽重を問わずすべての事故で報告が必要になりますので、軽微な物損事故であってとしても必ず報告しなければなりません。
警察への報告義務を怠ると3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されます。

(2)相手方に連絡先等を伝える

交通事故が発生したときは、その場で相手方に以下の情報を伝えるようにしましょう。

  • 住所・氏名・連絡先
  • 自賠責保険の情報(保険会社名、証券番号など)
  • 任意保険の情報(保険会社名、証券番号など)
  • 勤務先
  • 車検証

交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、事故後の対応は保険会社が行ってくれます。被害者としても今後、どのように対応してくれるか不安を抱いていますので、きちんと保険に加入していることを伝えてまずは安心させてあげましょう。上記の情報を伝えておくことで、後に被害者に症状が生じた場合でも保険会社などに連絡することができますので、スムーズに事故後の手続きをすすめることができます。
なお、早期に解決したいからといって、事故現場で被害者と示談交渉をするのはトラブルの原因になりますので避けてください。

(3)警察の実況見分への協力

人身事故であった場合、警察による実況見分が行われます。実況見分の結果をまとめた実況見分調書は、過失割合や刑事責任の判断にあたって重要な資料になりますので、加害者側としても積極的に実況見分に協力し、真実を述べるようにしてください。

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(4)現場状況の撮影

事故後の現場の状況や車両の損傷の有無・程度については、その場でスマートフォンを利用して撮影しておくことをおすすめします。
過失割合で争いが生じた場合、証拠がなければ自己に有利な過失割合を認めさせることはできません。現場状況の撮影をした写真などがあれば、今後の示談交渉を有利に進められる可能性がありますので、可能な範囲で証拠を残しておきましょう。
また、証拠写真があれば過大な民事・刑事責任を負うリスクを回避できる可能性もありますので、自分の身を守るという意味でも証拠保全が重要になります。

(5)保険会社への連絡

事故が発生したときは、ご自身が加入する保険会社のコールセンターに連絡して、事故の報告をしてください。その際には、以下の事項を伝えるとスムーズです。

  • 契約内容:契約者・被保険者の氏名、保険証券番号
  • 事故の状況:事故発生の日時、場所、事故発生状況
  • 損害の状況:けがの有無・程度、車両の損害の有無・程度
  • 加害者の情報:加害者の住所・氏名・連絡先、加害者加入の保険会社の情報

保険会社に連絡をすると、その後の被害者対応は、基本的にはすべて保険会社の担当者が行ってくれます。後述するような被害者への謝罪や見舞いなどは加害者本人で対応する必要がありますが、その他の示談交渉などの手続きはすべて保険会社に任せるようにしましょう。

(6)被害者への謝罪・見舞い等

被害者への対応をすべて保険会社に丸投げすることもできますが、それだと被害者は、加害者の対応が不誠実だと感じることがあります。そのため、少なくとも被害者への謝罪や見舞いなどの対応は加害者自身で行った方がよいでしょう。
被害者への謝罪や見舞いをすることで、被害者の処罰感情が和らぎスムーズに示談交渉を進められるとともに、刑事責任の判断においても有利に考慮される可能性があります。

2.人身事故の加害者が負う法的責任

人身事故の加害者は、民事責任・刑事責任・行政上の責任という3つの法的責任が生じます。

(1)民事責任

交通事故により被害者に損害を与えた場合は、民法上の不法行為(民法709条)が成立し、加害者には被害者に対する賠償義務が発生します。このような被害者への損害を賠償する責任を「民事責任」といいます。
加害者が負う損害賠償の内容は、被害者に生じた損害の内容によって異なりますが、代表的なものとしては、以下のような損害が挙げられます。

【けがに対する賠償金】

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 入院雑費
  • 付き添い費用
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料

【後遺障害に対する賠償金】

  • 後遺障害慰謝料
  • 後遺障害逸失利益

【死亡に対する賠償金】

  • 死亡慰謝料
  • 死亡逸失利益
  • 葬祭費用

(2)刑事責任

人身事故は、被害者の生命・身体に危害を加える犯罪行為になりますので、刑事罰の対象となります。加害者が犯した罪に対して刑事罰が科されることを「刑事責任」といいます。
加害者が負うべき刑事責任の内容は、事故の状況に応じて以下のようなものが挙げられます。

①過失運転致死傷罪(自動車運転致傷行為処罰法5条)

自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合には、過失運転致死傷罪が成立し、加害者に対しては、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科されます。

②危険運転致死傷罪(自動車運転致傷行為処罰法2条)

自動車を危険な方法で運転して人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪が成立します。危険運転致死傷罪が成立し得るケースとしては、以下の6つが挙げられます。

  • アルコールや薬物の影響により正常な運転ができない
  • 運転の制御が困難なほどの速度超過
  • 運転の制御ができる技能を持たないままの運転
  • 妨害目的のあおり運転
  • 信号無視
  • 通行禁止道路の走行

危険運転致死傷罪が成立すると、被害者が負傷した場合は15年以下の懲役、被害者が死亡した場合は1年以上20年以下の懲役が科されます。

③保護責任者遺棄罪・同致死傷罪の可能性(刑法218条、219条)

被害者をいったん移動させた後で、必要な救護を行うことなくその場から逃走すると保護責任者遺棄罪または同致死傷罪に問われる可能性があります。
保護責任者遺棄罪が成立すると3月以上5年以下の懲役、保護責任者遺棄致死罪が成立すると3年以上20年以下の懲役が科されます。

(3)行政上の責任

行政上の責任とは、交通事故の加害者に対して、公安委員会が行う処分であり、違反行為に応じて運転免許の取消しや停止などの処分が行われます。

①違反点数制度|点数に応じて免許の停止・取り消しの処分を受ける可能性

違反点数制度では、違反回数や累積点数に応じて、処分が行われます。たとえば、前歴がない人だと違反点数6点以上で免許停止、15点以上で免許取消になります。
人身事故だと、加害者の不注意の程度や被害者の負傷程度に応じて2~20点の違反点数が付きます。

②反則金制度|違反の内容に応じて反則金(過料)を課される可能性

反則金制度とは、交通違反の内容や程度に応じて科される制裁金(過料)をいい、刑事罰として科される「罰金」とは異なるものになります。
軽微な交通違反については、反則金が適用され、反則金を支払うと刑事手続きが免除されます。

3.示談交渉の進め方

以下では、示談交渉の流れと、示談交渉が調(ととの)わなかった場合の対処法について説明します。

(1)示談交渉の流れ

①自分の自動車保険の担当者が被害者側に過失割合・示談金額等を提示

加害者が自動車保険に加入している場合、被害者との示談交渉は、基本的には自分の自動車保険の担当者が行ってくれます。
被害者の治療が終了したタイミングで、保険会社の担当者から被害者側に過失割合や示談金額などの提示がなされます。

②被害者側との交渉

被害者は、加害者側の保険会社から提示された過失割合や示談金額などを検討し、示談に応じるかどうかの判断を行います。保険会社から提示された示談金額に不服がある場合には、被害者側から増額を求める交渉がなされます。
このような交渉もすべて加害者側の保険会社の担当者が行ってくれます。

③協議が調えば示談成立

被害者との間で協議が調えば、示談成立となります。示談が成立すると、加害者側の保険会社から「免責証書」と呼ばれる示談書が送られ、被害者がそれに署名・押印することで示談が成立します。

(2)示談交渉が調わなかった場合の手段

示談交渉が調わなかった場合、以下のような手段により解決を図ります。これらの手段も基本的には保険会社(代理人弁護士)が対応してくれます。

①ADR

ADRとは、裁判外で紛争を解決する手続きで、交通事故に関するADRには、以下のようなものがあります。

  • 日弁連交通事故相談センター
  • 交通事故紛争処理センター

ADRは、裁判に比べて早期解決が期待でき、費用が低廉かつ手続きが簡便というメリットがあります。

②調停

簡易裁判所の民事調停を利用することで、交通事故に関する紛争の解決が可能です。調停では、調停委員が当事者の間に入って、紛争の解決に向けた調整を行ってくれますので、当事者だけで示談交渉をするよりもスムーズな解決が期待できます。
当事者双方が合意に至れば、調停成立となります。

③訴訟

ADRや調停でも解決できない場合は、最終的に裁判所の訴訟手続きにより解決を図ります。
訴訟では、当事者双方からの主張立証に基づいて裁判所が判決を下しますが、裁判上の和解により解決することもあります。

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4.人身事故の加害者になった場合は弁護士に相談を

交通事故加害者が任意保険に加入していれば、民事上の損害賠償責任についての示談交渉の対応は基本的に保険会社に一任することができます。しかし、保険会社の対応に不満がある場合などは、弁護士に相談すれば有効な対策を講じられる可能性があります。
また、任意保険に未加入(自賠責保険のみ)の場合、被害者との示談交渉は加害者自身で行わなければなりません。示談交渉は、知識や経験がなければ対応が難しいため、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼することで民事および刑事上の責任について、過大な責任を問われるのを防げる可能性もあります。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年10月24日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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