交通事故のケガの治療に健康保険は使えるか?条件と手続き

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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
交通事故のケガの治療に健康保険は使えるか?条件と手続き

交通事故によるケガの治療には、原則として健康保険を使うことができます。医療機関に対して健康保険を使う旨を申告し、必要書類を提出しましょう。

1.交通事故のケガの治療には、原則として健康保険が使える

交通事故によるケガを治療するために医療機関を受診する際、または薬局で処方薬を購入する際には、原則として健康保険を使うことができます。

(1)健康保険とは

健康保険とは、保険事故による病気やケガなどを治療するために必要な費用を、社会全体で賄うことを目的とした公的保険です。日本では「国民皆保険」といって、全国民に健康保険への加入が義務付けられています。

国民健康保険料または健康保険料を毎月納付する代わりに、健康保険証を提示すると、医療機関や薬局で支払う費用が原則として3割負担に抑えられます。

また、医療機関等での支払いが高額となる場合は、毎月一定の金額を超える部分の負担が免除される「高額療養費制度」も設けられています。

高額療養費制度を利用する場合、いったん3割負担をした上で超過額の払い戻しを受けるのが原則です。
ただし、健康保険証と一緒に「限度額適用認定証」を医療機関の窓口に提出するか、あるいは健康保険証利用登録を行ったマイナンバーカード(=マイナ保険証)を提出すれば、最初から自己負担限度額を超える支払いが免除されます。

(2)交通事故の被害者も、健康保険を利用して治療を受けるべき理由

交通事故の被害者も、健康保険が使えないケース(後述)を除き、ケガの治療を受ける際には健康保険を利用しましょう。

交通事故の被害者でも、健康保険を利用して治療を受けた方がよい理由は以下のとおりです。

①初期段階の治療費は、いったん自己負担するケースが多い

加害者側の保険会社に連絡した後は、保険会社から医療機関へ直接治療費を支払ってもらえるケースが多いです。しかし、保険会社にまだ連絡していない初期段階の治療費は、被害者がいったん自己負担することになります。

自己負担した治療費は、最終的に加害者側に対して請求できますが、損害賠償金を受け取るまでは被害者が立て替えることになるので、健康保険を利用して立て替えの負担を抑えましょう。

②加害者が無保険・無資力のケースがある

加害者が任意保険に加入しておらず、自力で損害賠償を支払う資力もない場合は、被害者が支出した治療費を加害者から回収できないおそれがあります。
このようなケースも想定して、健康保険を利用して治療費の負担を抑えましょう。

③保険会社に治療費を打ち切られることがある

加害者側の保険会社は、被害者の症状固定を主張して、一方的に治療費の支払いを打ち切るケースがあります。
不当に治療費を打ち切られた場合は、後に保険会社に対して保険金を請求できるものの、保険金を受け取るまでは被害者が治療費を自己負担しなければなりません。この場合は、健康保険を利用すれば立て替える治療費の負担を抑えられます。

④自分の過失割合分の治療費は補償されないことがある

交通事故によるケガの治療等に関する損害のうち、自賠責保険によって補償されるのは120万円までです。それを超える部分は、加害者側の任意保険によって補償されます。

被害者が支出した治療費のうち、加害者側の任意保険によって補償されるのは、加害者側の過失割合に応じた金額が上限です。特に治療費が高額となった場合において、被害者側にも一定の過失が認められるときは、治療費の一部が補償されないことがあります。

自己負担となってしまう治療費の負担を軽減するためには、健康保険を利用するのが効果的です。

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2.交通事故のケガについて、健康保険が使えないケース

交通事故によるケガの治療には原則として健康保険が使えますが、交通事故が労災にあたる場合や、保険適用外の治療・施術を受けた場合には、健康保険を使うことができません。

(1)交通事故によるケガが労災にあたる場合

「労災(労働災害)」とは、業務上の原因により、または通勤中に生じた労働者の負傷・疾病・障害・死亡をいいます。
業務の一環として車を運転している際の交通事故や、通勤のために車を運転している際の交通事故によって労働者がケガをした場合、そのケガは労災にあたります。

交通事故によるケガが労災にあたる場合、治療費などは労災保険によって補償されます。その反面、労災にあたるケガの治療について健康保険を適用することはできません。

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(2)保険適用外の治療や施術を受けた場合

健康保険を適用して自己負担額が原則3割に抑えられるのは、保険医療機関において保険診療を受けるとき、および保険薬局において保険適用の薬剤を購入するときに限られます。

以下のような保険適用外の治療や施術を受けるときは、健康保険を利用することができず、費用が全額自己負担となります。

  • 接骨院や整骨院で受けるマッサージやカイロプラクティック
  • 民間療法

など

3.交通事故のケガについて、健康保険を使う場合の必要書類

交通事故によるケガについて健康保険を利用して治療を受ける場合には、健康保険証以外にも、医療機関等の窓口に以下の書類を提出する必要があります。

  • 第三者行為による傷病届
    →保険者(市区町村、協会けんぽ、健康保険組合など)が加害者側に対して健康保険給付費用を求償するため、必要な情報を提供するための届出書です。
  • 交通事故発生状況報告書
    →交通事故の発生状況を具体的に記載した報告書です。
  • 同意書
    →保険者が加害者側に対して健康保険給付の費用を求償するに当たり、被害者の個人情報を取り扱う際の方法に関する同意書です。
  • 健康保険負傷原因届
    →労災に該当せず、労災保険が適用されないことを確認するための届出書です。
  • 損害賠償金納付確約書(・念書)
    →加害者側が健康保険給付費用の求償に応じることを確約する書面です。加害者側に記入してもらえないときは、被害者がその旨を記入した上で署名・押印します。
  • 交通事故証明書
    →交通事故が発生した事実・日時、相手方などが記載された証明書です。自動車安全運転センターに申請すれば交付を受けられます。

参考:「交通事故に関する証明書」(自動車安全運転センター)

交通事故証明書を除く提出書類の様式は、医療機関等の窓口で交付を受けられるほか、協会けんぽのウェブサイトなどからもダウンロードできます。

参考:「事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について)」(全国健康保険協会(協会けんぽ))

参考:「健康保険負傷原因届」(全国健康保険協会(協会けんぽ))

参考:「損害賠償金納付確約書」(全国健康保険協会(協会けんぽ))

4.交通事故の損害賠償請求や、健康保険の利用については弁護士に相談を

交通事故によってケガをした被害者が、加害者に対して損害賠償請求を行う場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

加害者側の保険会社は、支払う保険金額を抑えるため、不当に低い損害額や過大な被害者の過失割合を提示してくることがよくあります。弁護士に依頼すれば、法的な観点から加害者側に対して反論してもらえるので、適正な額の賠償金を受け取れる可能性が高まります。
特に自分の過失割合がゼロであると主張する場合は、自動車保険の示談交渉サービスを使えないので、最初から弁護士に依頼しましょう。

また、弁護士に相談すれば、交通事故のケガに関する健康保険の利用についてもアドバイスを受けられます。
加害者から損害賠償を受けられる場合でも、健康保険を使ったほうが有利なケースが多いです。健康保険について分からないことがあれば、弁護士にご相談ください。

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